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伝統と創造茶道と建築音楽と建築職人との協働生活と設計あるべきようは

設計者の描いた図面は、施工者が施工して初めて建築となります。同じ設計図でも施工者によって出来上がる建築が違うのは、同じ楽譜でも演奏者が違えばまったく違う音楽になることと似ているかも知れません。幸いいつも施工をお願いしている職人さんたちは皆腕が良く、拙い設計図を元に素晴らしい形で建築を作り上げてくれています。大工、左官、造園など、同世代でありながら高い志と卓越した技術を持つ誠実な職人さんたちと巡り会うことが出来、切磋琢磨しながら一緒に仕事が出来るのはとても恵まれた状況にあると感じています。彼らは、さらに若い職人たちをまとめる親方であると同時に、自ら職人として素晴らしい仕事をしてくれます。文化財の修復などを通じて伝統的な工法に精通しながらもそれに固執せず、さらに良いものを目指して実験・研究を重ね、建築主に喜んでいただけるものを、社会的にも意味のあるものを、設計者との協議を重ね、創り出してくれています。今後、職人としてのピークを向かえる彼らに、どのような仕事を依頼するのか、長い歴史の中で積み重ね受け継がれた技術を存分に使いながら、新しい技術や表現にもチャレンジし、現代において何を考え未来に向かって何を作るのか、設計者には重要な責任が負わされていると感じています。またこうした素晴らしい技術を持つ職人たちと仕事をしていて痛切に感じるのは、一緒にものづくりをしていながら、設計者にだけ「手の感触が無い」という決定的な欠如感です。昔は図面が手描きで、まだそこには職人と似た感触がありましたが、CADが主流となった現在そうした傾向はより顕著になっているかもしれません。ただ仮に図面等を手で描いたとしても、それらはあくまでも「伝達のための手段」でしかなく、建築という最終の成果物には設計者の手の跡はありません。しかし、そうした欠如感があるからこそ、設計者は職人の仕事に敬意を払い、多くのことを学び、注意深くものを観察し眼を養い、寸法感覚を磨き、テクスチュアや光や影に対する感性を磨いてゆかなければならないのだと思います。

岩崎建築研究室